太陽系は約46億年前、銀河系(天の川銀河)の中心から約26,000光年離れた、オリオン腕の中に位置。

インドにおける農業政策の方向性
-公的分配システムに着目して-
2018年5月29日
農林水産政策研究所 研究成果報告会
草野拓司
1
報告の構成
1.本研究の課題
2.インド農業の動向
(1)農業の概要
①農業の位置づけ
②耕種農業の特徴
③農産物産出額
(2)インド最大の主食穀物コメの需給動向
3.インド農政の動向
(1)農政の概要
①農業政策の背景にある飢饉
②穀物大国への成長を支えた主な農業政策
(2)インド農業を支える公的分配システム
①目的
②仕組み
③費用の概念
④運営動向
4.まとめ
2
1.本研究の課題
・インドは13憶人を超える人口超大国であり、主食穀物であるコメや
小麦などの生産量や消費量は世界最大級であることから、国際的
な影響力がきわめて大きい。そのため、これまでコメや小麦の生
産や消費の動きを規定してきた農業政策の方向性を正確に捉え
ることが求められる。
・そこで、近年のコメをめぐる農業政策(公的分配システム)の動向
を紹介しつつ、インドにおける農業政策の方向性を検討する。
3
4
インドの産業別GDPの推移
資料:GOI, Economic Survey各号より.
注.04/05年価格ベースの実質価格.
2.インド農業の動向
(1)農業の概要
①農業の位置づけ
第三次産業の急拡大
(シェア)30%→57%
第二次産業の停滞
(シェア)15%→26%
第一次産業の低下
(シェア)55%→16%
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100万人
農村人口 農村人口割合
5
インドの農村人口
資料:GOI(2016),Agricultural Statistics at a glance 2015 より.
シェアは低下傾向も、依
然として約70%が農村に
居住している。
農村人口は増加を続け、
8億3,400万人に。
作物別作付面積の構成
資料:GOI, Agricultural Statistics at a glance各号より.
注. 年変動をならすため、3ヵ年の平均値をとった.
6
②耕種農業の特徴
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51/52
81/82
11/12
100万ヘクタール
コメ 小麦 粗粒穀物 豆類 油糧種子 綿花 サトウキビ その他
コメ、小麦、粗粒穀物を併せた「穀物」
中心のインド耕種農業
コメの作付面積
の増加
小麦の作付面積
の増加
粗粒穀物の作付
面積の減少
7
主な特徴
・東部と南部のコメ
・北部の小麦
・中西部の雑穀
各州の主要生産穀物(作付面積による分類)
資料:GOI, Agricultural Statistics at a glance各号より.
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04/05 05/06 06/07 07/08 08/09 09/10 10/11 11/12 12/13 13/14
10万ルピー
穀物 豆類 果実・野菜 油糧種子 繊維 畜産物
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農産物の産出額
資料:GOI, Statewise and Item-wise Estimates of Value of Output from Agriculture and Allied Sectors各号より.
注:04/05年価格ベースの実質価格.
③農産物産出額 畜産物の重要性が増している
(ミルクが最大、食肉が二番目)
穀物は畜産物に次ぐ産出額に
(コメが最大、小麦が二番目)
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kg/年,%
1,000トン
生産量 消費量 純輸出量 1人当消費量(右軸) 自給率(右軸)
コメの需給 9 資料:USDA, PSD Onlineより.
(2)インド最大の主食穀物コメの需給動向
高い自給率
(110%前後)
1人当たり消費量
は横ばい
(75kg/年前後)
世界最大級
の輸出量
(2011年以
降は1,000
万トン超)
3.インド農政の動向
(1)農政の概要
10
①農業政策の背景にある飢饉
1943年のベンガル飢饉、1960年代後半の飢饉など、度重なる飢饉により、そ
の都度数百万人の犠牲者を出してきた。
→インドでは、食料(特に主食穀物であるコメと小麦)の自給が悲願となり、自給
を達成した後も、コメや小麦の自給はインド政府にとって最大の目標であり続
けてきた。
②穀物大国への成長を支えた主な農業政策
・価格・流通政策
:中核となる制度として、公的分配システムがある。コメや小麦の需給に大きな影響を与えて
いる。
・農業投入財政策
:化学肥料、水(灌漑)、電力への補助金政策。緑の革命を支えた。
・農産物貿易政策
:インド政府は一貫して国内農業の保護を大前提とした政策を採ってきた。「基本的に自給を
目指して国内農業を守るが、不足する時には国内農業を圧迫しない よう配慮しながら消費
者の不満を防ぐために柔軟に輸入する」、「国内農業・消費者の利益を最重視 した貿易政
策をとっている」(須田(2010)「インドにおける農業と農業政策の概要」より)。
・その他の政策
:農業・農村への金融・保険政策、農業技術開発・普及政策、協同組合政策などがある。
11
(2)インド農業を支える公的分配システム
12
・貧困層への安価な食料供給
・食料不足時の緩衝在庫の確保と価格変動への対処
・生産インセンティブの維持
①目的
(取扱商品)
コメ、小麦、バジラ(トウジンビエ)、ジョワール(モロコシ)、トウモロコシ、大麦、豆
類など多数の商品が扱われているが、その大半は主食穀物であるコメと小麦(コ
メが最大)。
(主な画期)
・1960年代半ば:ほぼ現行の形に整備された。
・2013年:食料安全保障法制定により法的根拠を持つように。
資料:首藤(2006)「公的分配システムをめぐる穀物市場の課題」、『躍動するインド経済:光と陰』などより.
公的分配システムの流通経路 13
②仕組み 最低支持価格で中央政府が
農民から買い上げる
中央配給価格で中央政府
から州政府へ
資料:首藤(2006)より抜粋.
インド食料
公社(FCI)
生産者
州機関
精米業者
自由市場
消費者
公正価格店
農村開発省など
消費者問題・
食料公的分配省
輸出業者
輸出市場
中央保管
州政府
配給カード保有者
輸出向け売却
国内市場向け売却
雇用創出計画など
(Primary Distribution Center)
政府流通(買い上げ・PDS)
政府流通(その他の分配政策)
中央保管からの市場向け売却
民間流通
公正価格店で買い物をする配給カード保持者(Mahesh Gogate撮影) 14
15
食料補助金
消費者補助金
緩衝在庫運営費用
一時保管・分配諸費用
購入税・州税・
買い上げ諸費用
穀物費用
(買い上げ価格)
取得費用
経済費用
FCI売上
資料:首藤(2006)より抜粋.
公的分配システムに関する費用の概念
③費用の概念
公的分配システム
による財政負担は
これでみる
400
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2002/03 03/04 04/05 05/06 06/07 07/08 08/09 09/10 10/11 11/12 12/13 13/14 14/15 15/16
ルピー/100kg
最低支持価格(名目) 最低支持価格(実質)
16 資料:RBI(2016),Handbook of Statistics on The Indian Economyより.
注.実質価格は 04/05年価格をベースとした卸売物価指数でデフレートした.
コメの最低支持価格の名目価格と実質価格
④運営動向
07/08年以降、最低支持価
格の名目価格は急上昇
07/08年以降、最低支持価格の実質
価格は600ルピー以上で高止まり
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100万トン
買上量 売渡量 生産量に占める買上量の割合(右軸)
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コメの政府買上量と売渡量
資料:RBI(2016),Handbook of Statistics on The Indian Economyより.
注.売渡量に輸出量は含まれていない.
最低支持価格が上昇(高止まり)した
07/08年以降、買上量が増加し3,500万ト
ンに迫っている。
07/08年以
降、買上量
が売渡量を
上回ること
によるギャッ
プが恒常的
に発生して
いる。 07/08年以降、生産量に占める買上量の割合はおおむね30%を
超えている(ピークの09/10年には36%に達した)。
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100万トン
政府在庫量
適正在庫量
充足率(右軸)
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コメの政府在庫量と適正在庫量
資料:RBI(2016),Handbook of Statistics on The Indian EconomyおよびFood Cooperation of Indiaウェブサイトなどより.
注.在庫量、適正在庫量とも4月1日現在の値.
08/09年以降、政府
在庫量は大幅に増
加している。
在庫量のピークは3,547万トン
(適正在庫量の2.5倍)
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ルピー/100kg
最低支持価格(名目) APL向け中央配給価格(名目)
BPL向け中央配給価格(名目) AAY向け中央配給価格(名目)
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資料:GOI, Department of Food & Public Distribution, Annual Report各号より.
注(1)APLとは貧困線以上の世帯、BPLは貧困線以下の世帯、AAYはBPLの中でも最も貧しい世帯を指しており、中央配給価格は低所得層ほど低く設定されている.
(2)インド政府は最低支持価格を籾米,中央配給価格を精米に対しての価格として公表しているため,それを利用した.よって、精米に換算すれば、最低支持価格は
より大きな値となる.
コメの最低支持価格と中央配給価格
逆ザヤの拡大
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億ルピー
食料補助金 対中央政府支出比(右軸)
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食料補助金の推移
資料:GOI, Ministry of FinanceウェブサイトおよびRBIウェブサイトより.
注.04/05年価格をベースとした卸売物価指数でデフレートした実質価格.
買上量の増大、在庫膨張、逆ザ
ヤの拡大に伴い、08/09年以降の
食料補助金が増大。
ピークの14/15年には、対中央政府支
出比で7.1%に相当するまでに増大。
・近年のインドでは、コメや小麦の1人当たり消費量はほぼ横ばいであり、所得増大
に伴う消費量の増加はコメや小麦では現れなくなっている。
・そのような状況下にあっても、インド政府はコメや小麦の最低支持価格を高く維持
することで、コメと小麦の安定した調達、およびそれによる価格安定、生産インセ
ンティブの維持を目指す政策を一層強化している。過去に度重なる飢饉を経験し
ているインドにおいては、主食穀物であるコメと小麦

の生産インセンティブ維持に
よる増産は現在でもきわめて重要な位置づけにあり、インド政府にとっても非常
に重要な課題であることに変わりがないということが分かる。
・2013年には食料安全保障法が成立し、公的分配システムは法的根拠を持つよう
になったことからも、コメと小麦を中心とした公的分配システムはより強固なもの
として維持される可能性が高いといえる。
・以上から、インドにおける農業政策は、今後もしばらくはコメや小麦といった主食
穀物に重点が置かれながら進んでいくことが予想される。
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4.まとめ


 

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